肩をすくめるアトラス

私見であるが、このアイン・ランドという人の主張はジョージ・オーウェルが言わんとしたことと、ほぼ同じであろう。オーウェルは政治をテーマに全体主義、共産主義を語ったのに対してアイン・ランドという人は経済を主眼にして共産主義を語ったのである。

アイン・ランドの主張を一言で言うならばアダム・スミスの「見えざる神の手」これこそが至上のものであるということである。


「きつい一日だったんだ」フィリップはむっつりと答えた。

(中略)
「他の人間も大変なんだ。おまえのように、何十億ドルの大陸大横断規模の問題じゃなくってもね」

(中略)

リアーデンには、弟がやっていることも、やりたいことも理解出来たことはない。フィリップを大学に行かせたが、彼は特に何を志すでもなかった。リアーデンの基準によれば意義のある雇用を探そうとしない人間はどこかおかしいのだが、自分の基準をフィリップにおしつけはしなかった。

p47

ダグニーには「政治能力」といわれる分野も、その能力が意味するものもさっぱりわからなかった。しかしそれは必要なものらしく、下水道掃除のように不愉快だが必要な仕事は多くあるのだ、彼女は深く考えないことにした。誰かがやらねばならず、ジムはその仕事が好きらしい。

(中略)

十六歳のとき、オペレーターの机に座り、通り過ぎるタッガードの列車の明りのついた窓を見ながら、とうとう自分が求めていた世界にやってきたと彼女は思った。年月がたち、そうではなかったと気づいた。戦いをしいられた相手は戦う価値もなく、勝利する価値もなく、挑戦するのを光栄に思える優れた能力でもなかった。それは無能さ–何にも、誰にも抵抗しないにもかかわらずゆく手を阻む、柔らかく形のない灰色の綿の広がりだ。彼女はなす術もなく、何がこれを可能にしたのかという謎の前に立ち尽くした。答えは見つからなかった。

p58

ダグニーが役員室を出て路上の新鮮な冷たい空気のなかを歩いていると、ある言葉がはっきりと執拗に、呆然として空っぽになった彼女の頭の中で繰り返されるのがきこえた。「逃げて・・・逃げて・・・逃げて」
彼女は驚愕した。タッガード大陸横断鉄道を辞めるという発想はこれまで考えも及ばないことだった。その思いつきではなく、そう思わせた疑念が怖かった。彼女は憤然と首を振り、タッガード大陸横断鉄道は今まで以上に自分を必要としている、と自分に言い聞かせた。

太字管理人

彼の人生は、本人に報酬が意味を持つ時から一世紀あとに公園の像となるのが報酬だったすべての男たちの人生の要約だった。

p74

「ま、お好きなように。随分といいお友達に違いありませんな。あなたとあなたの奥さんじゃないそこの素敵な女性が」p319

「ひとつ助言がほしければね、お姉さん」バスカム市長がいった。「雑貨屋で安い結婚指輪を買ってはめることだ。確実ではないが、ごまかせることもある」

p320

「いいえ、タッガードさん。私は生活費を稼いでいるんです」
言葉と声には真実を語る本物の簡潔さがあった。
(中略)

–ずっと遠大なことに関わっているのです。私が出来る提案はひとつだけです。存在の本質によって、矛盾は存在しえない。天才の発明品が廃墟の中で置き去りにされ、哲学者が食堂のシェフとして働くことが考えられないと思うなら–前提を確認しなさい。どちらかが間違っているとわかるでしょう」

p357

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